■食べ物の現実とは…
先日、映画「フード・インク」を拝見しました。言葉を失った作品です。
アカデミー賞のドキュメンタリー部門でノミネートされ、公開翌週に上映館が20倍になったヒット映画です。
この映画を作った人は、勇気があると思いました。
アメリカの食肉市場の現実は、私の想像を超えて残酷なものでした。地獄絵図のようでした。
でも、真実なんですよね。
日本の場合は、どうなんでしょうね。
◇
この映画は、こんな言葉から始まります。
「生産地と消費者の間にはカーテンが引かれている。食品業界は真実を隠したいんだ。知ると食欲が失せるから」と。
この映画ではどのようにして食肉が作られるのかを描いています。
(あくまでもアメリカでの話ですが)
大量生産を目的とした、フードシステムで育てられた鶏、豚、牛は、「生き物」どころか、「食べ物」としての扱いにもなっていない、といっても過言ではないんです。
鶏は、ピヨピヨと卵から生まれ、無垢なひよこのときからベルトコンベアーで大量に運ばれます。そして、不衛生な環境で育てられ、特殊な餌で急激に太り、自分の体重で脚が折れて死に、食材にもならずに埋められることも。
生き残った鶏は、夜中の寝ている時間に職員によってトラックに詰め込まれ工場で食肉になります。
誰がそんな残酷な仕事をするのか?
経済的に貧しい人たちです。
鶏農家の人は、大企業に借金をして養鶏場を作り、契約を切られたら借金だけが残るため、言いなり状態に。
次から次へと施設に新しい設備を求められ、借金地獄に。
しかも、鶏を買い取られる金額は安く、スムーズにお金を返せるような年収ではない。
(つまり、そこからずっと抜け出せない)
牛には、牧草よりも単価の安い、本来は牛の餌ではないコーンを与えられ、それによって、牛に大腸菌O-157が発生。
(牛はコーンを消化できないのだとか)
その牛肉を食べて亡くなる子供が出てくると、今度は、その牛のひき肉をアンモニア消毒をしてハンバーガーのパテにする。
工場は牛にとって、死の場所。恐怖と悲鳴があふれている。
牛を屠殺する人たちは不法滞在者が多く、安い賃金で雇われている。
この映画を観る限りですが、食べられる牛、豚、鶏もそれを屠殺する人も、その薬漬けのものを食べる私たちにも尊厳を与えられていないような気がしました。
しかもこういったものを食べ続けているアメリカ人は糖尿病が増加…。
一体、何のための食べ物なのか。
だから、私たちも「海外の方が、食材が安いからこれでいいや」という話ではないんですよね。
きちんと選んで買わないと、それは食べ物とは言えないこともあるかもしれません。
◇
この映画では、種苗法についても触れています。
種からスーパーマーケットまで支配する某会社は、雑草をはやさない除草剤とその除草剤では枯れない耐性大豆を開発。
今はその大豆がトップシェアになっています。
特許を取得し、農家には、作った大豆の種子の保存を禁止。
つまり、今後もその会社で種を買い続けるしかなくなります。
もしその会社が種を値上げしたら、どうなるのか。
「売らない」と言い出したら、どうなるのか。
食糧難になることだってあります。
つまり、そこでも支配構造が生まれてきます。
更に言えば、自分たちはその会社の種を使っていなくても、隣の畑からその会社の種で作物を作っていて種が飛んできて、自分の畑で育ってしまったら、その会社から、「勝手に作った」と、裁判で訴えられてしまうんです(驚)。
争うと負けてしまうから、結局、認めて違約金を払うことことも・・・。
こんな理不尽な目にあうなら、「その会社の種で農作物を作った方がマシ」となってしまいますよね。農家泣かせの話です…。
日本の種苗法改正案については、とちおとめやシャインマスカットなど、日本のブランド作物の種が海外に持ち出されて、勝手に作られてしまうのが問題になっているようですが、ただただ、この法律が成立してしまうと、アメリカの農家と同じ状況になる可能性もゼロではありません。
シンプルに、「国内では好きなだけ種を作っていいけど、海外には持ち出し禁止」とかできないのかしら?と思うものです。
種を作ること自体を禁止にしなくても・・・。
(この問題については、ちょっと調べてみたので、下記の追伸で書きます)
◇
この映画でも言っていますが、こんな状況ではありますが、今、私たちができることもあります。
・労働者と動物に優しく、環境を大事にする企業から買う。
・スーパーに行ったら旬のものを買う。
・有機食物を選び、成分を知るようにするのが大切。
それによって、自分たちの食を守る一歩となるのです。
この映画は見ておいて、損はないですよ!
もちろん日本が同じ状況だとは言いません。
でも、リーズナブル価格の飲食店の多くは、外国産の食肉を使っていることが多いでしょうし、海外から食材が日本に多く入っている現在、「他の国の話だから関係ない」とは言えません。
・・・日本の食はどうなっているのか、詳しく知りたいですよね。
日本版の作品を、誰か作ってくれないかなぁ!
<追伸>
種苗法については、農家さんによっても、さらに一般の人によっても言うことが違って、なぜなのだろう?と思ったら、単に「自家増殖」や「ブランド種の流出」だけの問題ではないようです。
種苗法改正は、自家増殖禁止が注目されていますが、本質的にはこれによって日本の農業が弱体化していくことが問題、なのだとか。
(だから、自分たちの
範囲のことしか見ていなくて、農業全体までのことを農家さんが理解していないことも少なくないみたい。
でも、いずれ自分にふりかかることですしね)
種苗法改正を賛成している人は、「すでに日本の農家は、種や苗を買うことが多いから、自家増殖しないし、問題ない」「日本にも種苗会社があるから、海外に種苗業を乗っ取られることはない」と思われがちですが、近年は、農業の効率化、大規模化を進め、種の均質性を求めてきたために、種子を開発できる人が減っているのだとか。
さらに、種苗法改正を行うと、新しく開発した品種がたまたま在来種と類似した特性を持っていれば、それを盾に権利の侵害を申し立てられることも出てくることもある。
つまり、この状態で種苗法改正を行うと、国内の大手種苗会社だけが生き残り、それ以外は立ち行かなくなる可能性もあるようです。
そうやって日本で、種苗会社が弱くなってくると今後、海外の種を買う必要も出てくる、ということ。
それによって、日本の食が自分たちでコントロールできず、支配されてしまうことも起こり得るのです。
もちろん努力を重ねて作ったブランド種が勝手に海外に流出してしまうのは、問題です。
だから、間をとって、「国内では好きなだけ種を作っていいけど、海外には持ち出し禁止」という法律はできないのかしら?と思うものです。
とにかくこの問題は、落ち着いた環境で十分な審議時間を確保して議論を交わした方がいいんでしょうね。簡単に結論が出せる話ではないんですよね。
参考まで:現代ビジネスの記事
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72491
byコラムニスト・ひかり