■愛とは何なのか?
先日、渋谷Bunkamuraで公演中の宮沢りえさん主演舞台『アンナ・カレーニナ』を拝見しました。
一言で言うと、「すごかった!」です。
宮沢さんの狂気溢れる芝居が、真に迫っていましたし、小日向文世さん、浅香航大さん、渡邊圭祐さんなど、他の出演者の方々も熱演をされていました。
かなりエネルギーを使う舞台なので、これを1ヶ月も演じるなんて、「俳優さんたちの体は大丈夫か?」とちょっと心配になるくらい(苦笑)。
前半、後半と休憩がある、トータル3時間45分の舞台で、観ている方も大変!(苦笑)。
観終わった時には、ちょっと放心状態になりました。
トルストイが原作の「アンナ・カレーニナ」は、もうすでに内容はウィキペリアで調べると最後の結末まで内容が紹介されているくらい、ロシア文学の金字塔です。
ちょっと難しいところもあるので、むしろ観る前に、内容を予習したほうが楽しめるかもしれません。
この舞台はむしろ、「この難しい作品を、俳優さんたちがどのようにして演じるのか」という観方のほうが楽しめるかもしれません。
(ここからは若干、ネタバレになるので、これから観る人はご注意!)
内容を平たく説明すると・・・
アンナ・カレーニナ(宮沢)は、夫(小日向)と息子がいながら、若き青年将校・ヴロンスキー(渡邊)と恋に堕ち、娘まで産んでしまう。
でも、夫はアンナを許しつつ、離婚はしない状態。ヴロンスキーとの愛に全てを捧げる覚悟を決めていたアンナだったが、次第に精神的にも追い詰められていく。
追い詰められたアンナは……。
一方、リョーヴィン(浅香)は、キティに一度振られながらも、愛を持ち続け、再度プロポーズし、受け入れてもらう。
真実の愛を手に入れ、田舎で農地経営に精を出し、地に足の着いた暮らしを始める。
このアンナとリョーヴィンの「対照的な愛の形」が描かれた作品にもなっています。
◇
結局、アンナは、「相手から愛を与えられることで満たさせる」と思っているから、相手に愛を求めてばかりいる。
それで、思った通りの愛をもらえないと失望し、自分も相手も追い詰めていく。
逆に、リョーヴィンは、「自分の中から愛を増やせる人」。だから、キティに愛を与え、その結果、相手からも愛される。
もしアンナがもっと「成熟した愛」を持っていたら、幸せになれたのに、と思うものです。
もちろんパートナーを傷つけるから、基本的に不倫はダメですよ?
彼女の夫は、とても深い愛情で彼女を愛していたことに、もっと気づくべきだったと思うのはもちろんのこと、
若い男性と不倫して、相手は自分と結婚したがっていて、さらに、夫も自分を恨んでいるわけではない(が、何か事情もあって、離婚はしない)という状況は、そう、悪くはないとも思うんです。
ただ、当時の状況は、女性がまだ自立をすることができない時代。結婚した男性に養ってもらわないと生きていけない時代背景の中、「不倫相手と結婚できない」「相手をずっとつなぎとめられる自信がない」「彼からの愛情も確信が持てない」人にとっては、不安でしかたがないものなのかもしれません。
アンナがもう少し、きちんと自分を、そして、相手を愛することができる人であれば、こんな悲劇は生まれなかったところもあるでしょう。
結局、自分が愛することで、「自分の内側から愛を増やすこと」を知らない女性だったんですよね。
アンナの姿に共感する人もいるでしょう。「自分も当てはまる」という人ほど、この舞台を通して自分を客観視することができると思います。
そして、この難しい役柄を、宮沢さんが全身全霊で演じているんです。
舞台に登場した姿から、凛とした佇まいと美しさがあり、「さすがだな」って思いました。
とても観やすい席ではありましたが、私はオペラグラスを持参して、表情までしっかり観て楽しみました。
◇
演出は、イギリスの演出家・フィリップ・ブリーンさん。
日本の演出家にはなかなかないような、前衛的な演出でもありました。
列車の音とか、食事をする音とか、舞台上で他の出演者たちの声や楽器で表現したり。
大人たちが色々なモメ事を起こしている中、「実は、子供はそれをずっと見ている」という演出だったり。
かなり観ているほうもエネルギーを必要とする舞台ですが、興味のある方は、観てみては?
■ COCOON PRODUCTION2023 DISCOVER WORLD THEATRE vol.13「アンナ・カレーニナ」
2023年2月24日(金)~3月19日(日)
東京都 Bunkamura シアターコクーン
2023年3月25日(土)~27日(月)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
byコラムニスト・ひかり
(2023年3月の情報です)